トロント(カナダ)在住20年の筆者が、カナダ国内旅行やトロント市内を中心としたイベントで撮影した写真で綴るブログです。
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2016年9月1日木曜日

トロントとラーバニズム



思い返すと、私たち家族がトロントに移り住んだ頃は、今よりも暮らしやすかったのかもしれません。

何と言っても物価が今の半分(ホットドッグが1ドル)ほどで、混雑はしているものの今ほど人が密集していたわけではありませんでした。まだまだのんびりとした空気が流れていて、東京で生まれ育った私にとっては地方の小都市という感覚だったと言っても許される感じでしょうか。それが今では、世界的の住みたい街ランキングの上位おろか1位になることもある街へと変貌しました。観光地としても、大自然カナダというテーマにはまらない、ニューヨーク型の大都市としての発展途上にあります。

便利さや暮らしやすさが上がる一方で、人が溢れ、多重化・国際化が進むことで、街独自の特徴は薄まり、より複雑な大都市化のレールにのってしまった、という批判的な声も強くあります。

ラーバニズムとは

北米において大都市における最先端を行き、比較に持ち出される大都市ニューヨークは、トロントより200年早く街として誕生しました。トロントはもともとイギリスが北米の戦略的拠点としてたてられた街でしたから、東部13州の動きと連携させると立ち位置がよく分かるという特徴を持っていると考えています。

折に触れてニューヨークタイムズに流れてくるトピックスを眺めるのですが、ラーバニズム(Rurbanism)という言葉を目にしたのは昨年の春のこと。過密しすぎ便利になりすぎた大都市を離れるクリエーターやアーティスト、料理家や農業家といったニューヨーカーが、大都市と一定の距離を置いた「田舎」で、より人間らしい暮らしを実現しようと居を移している。こんな動きを総称する言葉がラーバニズム、とまずはざっくり言っても、そう間違いはないと思います。

過密化する中心から逃れて新たな街ができる、というのはニューヨークに限ったことではありません。トロントで言うと、クイーンストリートがそれにあたります。もともと服飾関係の卸問屋が集まっていた街はファッション・ストリートとなり、家賃が上がるにつれて西へ西へと移動を始めました。なぜかドンバレー渓谷を越えて東には伸びない、というのが伝統でしたが、ここ数年クイーンの東にレストランがポツポツとでき始めています。トロントの街を評価する方法として、今でもクイーン・ストリートの東西の端を見ていると街の様子がわかる、と思います。スケールとしてはニューヨークのそれよりも小さいですが、ラーバニズムの一種と言えなくもない、と考えているのですが。。

ラーバニズムは単に混雑する大都市圏を逃げ出しましょう、ということではありません。2014年にニューヨークタイムスが取り上げたニューヨーク州ハドソン。ラーバニズムをもっとも良く体現する街として代表格ですが、一読に値する記事だと思います。

“It’s the borderless and simple, tasteful aesthetic of merging the rural with the urban,” she said, like muck boots with dresses. “It’s a design-savvy life, but a real one.”

引用ですが、ラーバニズムを的確に言い当てているもので、印象的です。

引用元:http://www.nytimes.com/2014/01/16/garden/cultivating-hudson-enter-the-tastemakers.html?_r=0

ハドソンは、マンハッタンやブルックリンから移り住んだ若いアーティスト達が加わったことで、これまでの田舎町から新たなカタチの街へと変貌したようです。家賃の安さと自然環境がウリ。ラーバニズム指し示すところのアーバン(大都市)でもなくルーラル(田舎)でもない、その二つを併せ持った街に生まれ変わったことで、新しいライフスタイルも生まれた。家賃は安く、Farm to Tableが実現する独自のレストラン文化が育っている、と。実に魅力的です。

トロントを再評価してみると・・・

先ほどのクイーン・ストリートに加え、トロント島も一種のラーバニズムと言えそうです。加えて東のビーチ地区も、ダウンタウンと隣接していますが、「空気感」を感じることができるという意味では再評価に値するでしょうか。

さらに先を考える時の鍵となるのが、GOトランジットのレイクショア線。「Niagara Bound」という言葉がありますが、オンタリオ湖沿いのルートは、線として捉えるのではなく、面として捉えるのが正しいと思います。

最初の注目すべき街は、オークビル。高級住宅地が密集する、いわゆるトロントのベッドタウン的な存在で、GO駅から街の中心まで距離が少しありますが、湖畔は美しく、興味深い街です。裕福な人々が住む街でもありますから、レストランが注目です。

さらに先、となると、ナイアガラ直通列車が走る週末に停車するセントキャサリンズ駅。トロントとナイアガラを結ぶGOバイクトレイン(自転車専用車両)に乗ると、ローカルの自転車乗りがこぞって下車する駅が、ここ。彼らが喧騒けたたましいトロントを離れ、わざわざロードバイクをかついで持ってくるだけの価値のある街です。

もともとセントキャサリンズはナイアガラ・ワインカントリーの中にあり、ワインルートへのアクセスも良く、夏季には緑豊かで果樹園やワイナリーが数多くある、運河の街。中心街にはレストランもあり、市は「ガーデンシティ」として売り出していますが、農園も近いため食事が美味しい。ラーバニズムの最たる街の第一候補と言えそうです。

もう一つ見逃せないのが、ナイアガラ駅を下車しWEGOを使ってアクセスできる、ナイアガラ・オン・ザ・レイク(NOTL)。古くからショッピングの街として有名で、絵画的な街並みとともに旅行者から大きな支持を得てきました。ラーバニズムというキーワードでもう一度見直すと、新たな可能性として出てきた、レストランのついたワイナリーが興味深い展開を見せています。

Niagara Bound以外で一つだけ注目している街があります。それが、ロンドン(オンタリオ州)です。ここはまさに農園に囲まれたど真ん中に中心街がある、という形になっていて、美味しいレストランが数ある好きな街です。一時期ずいぶん通ったのですが、トロントからVIAで2時間。駅は街の中心にありますから、アクセスは問題ありません。

メープルリーフ号のもう一つの魅力

トロントからナイアガラへメープルリーフ号に乗りたいと思った理由の一つに、この列車がハドソンに停車する列車である、ということがありました。ラーバニズムを体験する際、公共交通機関を乗りこなすということは、そのコンセプトからして絶対要件です。

時刻表を見ると、午後7時20分に列車はこの街に停まりますから、そのままペン・ステーションまで行くより、トロントからVIA〜アムトラックでハドソンへ2泊3日で旅をしたら、思い出深い旅になるという予感があります。11時間かけて行く価値のある街なのかどうか、それは行ってみないとわからないでしょうね。