トロント(カナダ)在住20年の筆者が、カナダ国内旅行やトロント市内を中心としたイベントで撮影した写真で綴るブログです。
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2016年6月5日日曜日

トロントの街を自転車でポタリング



トロントの街を巡るポタリング。ちょうど失われた川のことを調べていたのでこれをテーマに2時間、気楽な感じで自転車を走らせてみました。

まずは今回のルート確認



Google Map でトロント市庁舎前を出発しCasa Loma までを検索すると、寄り道せずに片道自転車で21分。Bay Street から Davenport Rd を走るルートは単純で平日はなかなか交通量の多いのですが、土・日はぐっとクルマが減り走りやすいので安心です。



マップで自転車を選択すると、距離と時間に加えて高低差54メートルの上り坂という表示が出ます。確かに走ってみると緩やかな上り坂の連続で、運動にはちょうど良い感じです。

実は、今から1万2千年以上前の氷河期時代、東部カナダには厚いところでは2,000メートルにもなるローレンタイド氷床ありました。トロントはちょうど氷河の南端あたりに位置していました。氷河期が終わると、溶け出した水はオンタリオ湖の元となったイロコイ湖を作り、トロントは湖の底に沈んでしまいました。氷河の浸蝕で大地が削られたり、水没した後に土砂が沈殿したりと様々な要因がトロントの現在の地形を作り出しました。街全体が緩やかな坂になっているのは、もっぱらこうした地質活動に原因があります。坂道にも歴史があるわけですね。

早速寄り道



難しい話はさておき、途中でインディーズ系のコーヒー屋さんに寄ります。最近トロントで流行し始めた Cold Brew。日本でいうところの水出しコーヒーですね。普通のアイスコーヒーは、氷を入れて冷やしますが Cold Brew は水出しなのでそのぶんマイルドな味わいです。自転車で立ち寄れる店を探しておくというのも、ポタリングの楽しみ。ブロンプトンは折りたたみ自転車なので、店内でじゃまにならないようにたたんで持ち込み、テイクアウトをオーダーして外に出てゆっくりコーヒーを飲みます。



残りは水筒に入れ替えておけば、いつでも飲めるので安心。飲みすぎるとお手洗いとかが面倒になるので、必要な分だけ必要な時に水分補給ができるボトルを携帯しておくと何かと便利です。

見晴らしの良い景色が鍵



最初の目的地、Baldwin Steps に到着。この坂を登ると、左手にお城(Casa Loma)がありますが、今回はお城には入りません。



なかなかきつい階段ですが、ブロンプトンを折りたたんで登って行きます。



ツアーなどでくると西側の道路をバスでするーっと上がってしまうのですが、自転車でやってきて、さらに自力で階段を登るとずいぶんな高低差があるのだなということがわかります。その努力があってこそ、ダウンタウンを見おろす風景が1万2千年前に存在していた幻の湖、イロコイ湖畔からの眺めのありがたさが身にしみるものですね。遠くの左手にはCNタワーがあり、オンタリオ湖まで見通すことができる見晴らしの良い景色が楽しめる場所はその昔すべて湖の底だったというのですから、ここから見ておく価値はあると思います。

実はこの場所は丘陵地帯の一部。東へ向かうと、オンタリオ湖にぶつかる地点のスカボロー・ブラフに到達します。ここは氷河期時代に生まれた断崖絶壁の名所ですが、湖畔には公園があって、降りてゆく道路の傾斜がすごい。まるで山を下って行くような道がスリリングです。

ここが現在まで残っているイロコイ湖の湖畔の東側の端になります。巨大なオンタリオ湖をすっぽり包むほど大きさがあったというのは不思議な話ですが、いくつか眺めの良いポイントがあります。特に公園から絶壁を見下ろすこの場所からの眺めは秀逸。湖面は今よりもずっと上にあったのですね。

話を元に戻しましょう。

Baldwin Step の入り口がある Davenport Road は、カサロマ城の麓を東西に沿うようにして走る、もともとはファーストネーションズ(カナダ先住民族)の Portage(運搬路)で、トロントの道路の中でも最も古い部類に道路。彼らは古くから、ドンバレーからハンバー川へ移動する幹線としてここを使っていました。

写真は1922年に撮影されたものですが、すでに家が建ち並び始めていますね。今から100年ほど前に、すでに街の原型は出来上がっていたことになります。(Bathurst Street and Davenport Road looking southeast[April 22, 1914])

カナダ先住民族の輸送路を走る



ここから、かつてのファーストネーションズの人々が使っていた Davenport Road を走ってみましょう。道路の区画上の起点となっている Yonge と Davenport の交差点が目的地です。所要時間は約9分。多少起伏はあるものの、高低差21メートルの下り坂を走ります。



交差点に到着したら Frank Stollery Parkette という小さな公園で一休み。今の時期はご覧の通り緑が多くダウンタウンの憩いの場という感じになっていますが、この場所に立てられているパネルを見ながら休憩です。



交差点に面している東側には2本のパネルが立っていて、Ancient Trail というタイトル文字が読めます。ここは道路の歴史を読むことができる、トロントのなかでも珍しい場所。わざわざこうした公園を作りパネルを設置するわけですから、それだけ Davenport Road がトロント史にとって重要な位置があることを表しているのでしょう。



パネルは写真も含めてかなり詳細に説明されています。交差点側はイロコイ湖の湖畔の位置とファーストネーションズが使っていた移動路の関係性が示され、奥側には現代に至る歴史と、2つのテーマに分けられています。地図もない時代には、川がすべてのナビゲーションの始まり。そこから獣道のような道ができ、交通路に発展します。イギリス人の入植後は道幅が広げられ、輸送路として盛んに使われました。

街が始まった19世紀の道路は舗装が行き届かなかったために、こんな状態で泥だらけ。当時は Muddy York というニックネームがつけられてしまうような状態でした。

どの写真を見ても、街じゅう泥だらけのようです。原因の一つは、一帯が氷河が地表を削った時にできた細かな土砂で覆われていたことと、かつては湖の底だったため泥の層があったという地質的な由来によります。

ですから、トロントの近代化にとって道路の舗装と治水は欠かすことができない工事になりました。写真は1912年頃に撮影されたものですが、よく見ると馬車が側道にはまって動けなくなっているようにも見えます。こんなことが日常的に起きていた、ということなのでしょう。(写真:Muddy road, Bathurst Street hill, Wychwood[1913 or 1919])

余談になりますが、Don Valley にある Brick Works という施設を訪ねると、トロントの発展の一端を垣間見ることができます。

この施設は、トロントの大火によって法律が変わり、建築資材として大量のれんがが必要になったことから生まれたれんが工場跡。屋内には地層と機械の展示が行われています。施設の北側奥にある掘削によってできた地層の壁が、地質学者によって解き明かされました。泥によって苦しめられたトロントはまた、泥によって救われたというわけです。

正面入り口近くにあるオブジェはトロントの水系をイメージした印象的なアートですが、昔のトロントはたくさんの川が流れていた川の街であったことが偲ばれます。

失われた川を辿る



次の目的地、Taddle Creek 公園に向かってみましょう。地下鉄 St.George 駅北側徒歩数分で先ほどの Frank Stollery Parkette からだと、自転車で5分と近いですね。



これが公園の入り口。川があったという痕跡を見ることはできませんが、水差しのオブジェがある噴水が、そのことを伝えていて、公園の入り口にはステンレス製の板に刻まれたオブジェの由来を読むことができます。



都市化に伴い、道路は舗装され、治水工事が進みます。工事の過程で多くの川は埋め立てられ、下水道システムへと組み入れられました。Lost River と言って、今はもう消滅してしまった川がトロントには数多くあります。この Lost River の一つに、Taddle Creek があります。写真のブルーで描かれたラインがそれですが、この川はちょうどカサロマ城のある丘陵地帯が水源で、ダウンタウンのど真ん中を西から東へ斜めに縦断し、トロントの街の東側でオンタリオ湖に流れ込んでいました。この失われた川の痕跡を辿ると、トロントという街が誕生した前後の時代にどんな風景があったのかが分かって、大変面白いところです。



次の目的地に向かいましょう。Bloor まで下がりロイヤルオンタリオ博物館の手前にあるゲートを入ると、「哲学の道」があります。ここはかつての Taddle Creek の姿が一番わかる場所で、緑美しい散策路です。



Bloor 側の入り口から入ってみます。ここは遊歩道なので、自転車からは降りて歩きます。



途中には、Taddle Creek の解説パネルが置かれていますので、こういうものをゆっくりと読みながら散策するというのも楽しみです。



散策路自体はゆっくり歩いて10分もあれば南端の Harbord Street に出ます。ここはトロント大学のキャンパスになっていて、春から夏にかけてはなかなか美しい風景を見ることができます。



今回の最後の目的地も、失われた川の痕跡がある場所です。「哲学の道」から4分と近いので、見に行くことにします。



トロント大学のキャンパスを抜けて行きます。



ちょっと見つけずらいのですが、地図を頼りに行ってみてください。失われた川の痕跡を探すわけですから、宝探しのようなものですね。



Taddle Creek がどういった歴史を辿ってきたのかが、物語としてまとめられています。

出発点に戻ります



ここから今日の最後の目的地、トロント市庁舎前に戻ります。出発点でしたね。実はここにもかつての川の痕跡が残っています。



噴水池のあるトロント市庁舎前広場も、かつての川の名残。もちろん川がありましたという表示はどこにもありませんが、こういった所に人口の池と噴水ができるというのは、やはり何らかの関係があると考えても良さそうです。お腹が空いたので、市庁舎前広場でホットドッグのお昼ご飯です。ゆっくり回って約2時間。週末の午前中を過ごすのにはちょうど良いルートでした。



今日はここで終了ですが、市庁舎前からさらに東南方向に川は流れていましたから、各所にその痕跡を辿ることができます。近いところでは、市庁舎東側正面のマリオットホテルの南側を Bay Street から入った所にある小川。人口の噴水池から流れるここも、当時を思わせる名残になります。イートンセンターに入り見おろすと、有名な噴水がありますが、ここはちょうど Taddle Creek が流れていた場所なのだそうです。さらに南へ向かい、ディスティラリー地区の先でオンタリオ湖に流れ込みます。川はすでに失われてしまいましたが、未だに水辺を思わせる噴水やら池が点在しているというのは、土地の持っている記憶ということなのでしょう。時間を見つけて、次回は後半を走ってみたいと思います。