トロント(カナダ)在住20年の筆者が、カナダ国内旅行やトロント市内を中心としたイベントで撮影した写真で綴るブログです。
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2015年8月25日火曜日

トロントからヨーロッパ旅(9) 150年を超える歴史のロンドン地下鉄



イギリス旅の9回目。今回は、ロンドン市内にある交通博物館を中心に地下鉄を考えてみます。

始まりは産業革命




ロンドンの街を歩いていると、狭い街が人で溢れかえっていて、特に混雑している地下鉄は東京に似ていると感じます。この混雑、ルーツをたどると19世紀の産業革命時、ロンドン市内とイギリス郊外を結ぶ鉄道が整備されると何十万という人が市内に流入して大混雑をつくりだしていたとのこと。



ロンドンには、トロントや東京のような中央駅(Union Station)がなく、市内に散在する7つのターミナル駅(キングス・クロス、ユーストン、ロンドン・ブリッジ、ウォータールー、ビショップスゲート、フェンチャーチ・ストリート)が国内を結んでいるという、ちょっと変わった形になっています。そおいえば東京でも、ひと昔前は東北に向かうには上野駅、関西に向かうには東京駅と分かれていましたね。(写真はキングス・クロス駅)



地上の混雑をさばくために、まずは各ターミナル駅に到着した人々を効率良く最終目的地まで運ぶために鉄道を建設する案が立てられます。しかし地上はすでに路線を通す余地がなかったため、世界で初めて「Underground」と呼ばれる地下鉄路線が建設されます。



市内のコヴェントガーデン・マーケットに、ロンドン市内の交通の歴史がわかる交通博物館がありますが、ここに行くとこうした経緯がよくわかるように展示されています。



中に入ると、市内交通の要となるバスやストリートカーの原型となった馬車式「オムニバス」の展示や、



タクシーとか、初期のバスの展示。



名物の2階建てバスなどの展示があって、1階入り口から入って2階に上がり、そこからぐるっと回って下に降りる形でひととおりロンドンの交通史が学べるようになっています。



特に力が入っているのが、世界初の地下鉄の展示。これは1836年12月に開業したロンドン/グリニッジ線開業記念の乗車券。



実際は、トークンという小型の硬貨のようなものが使われていました。

19世紀後半のロンドンの市内はすでに地上部分に鉄道を作る余地がなかったため、新線は地下という選択肢しかありませんでした。こうして最初に作られたのが「メトロポリタン鉄道(Metropolitan Railway)」です。



1863年1月9日の開通ルートは、パディントン、エッジウェア・ロード、ベイカー・ストリート、ポートランド・ロード、ガワー・ストリート、キングス・クロス、ファリンドン・ストリートの各駅をむすぶ線。



工事は開削工法(cut-and-cover)という、地面を掘り浅いところにトンネル型の屋根を作り、再び土で埋め返すという方法が使われ、比較的地中の浅いところに作られました。写真は工事風景のジオラマですが、とっちらかってますね。

メトロという名前はロンドンがはじまり


東京の地下鉄がメトロと言われているのは、メトロポリタン鉄道の名前から来ているというのは有名な話。ロンドン市内にある交通博物館に行くと入り口は東京メトロの路線図が壁にデザインされているほどで、ロンドンと東京はよっぽど縁があるようです。ロンドンでは地下鉄は「TUBE(チューブ)」とか「Underground(アンダーグランド)」と呼びますが、アメリカでは「Subway(サブウエイ)」と呼ばれます。



アメリカの地下鉄は、ボストンが古く、1897年に最初に作られました。ボストンのTラインに乗ると、いかにもアメリカの地下鉄という感じがします。



ボストンではストリートカーも発達していて、トロントはこの点ではアメリカの影響を受けていると考えられます。



なんとストリートカーは、近畿車両製です。

カナダの場合、初の地下鉄がトロントのヤング線で開業した(TTC)のは1954年のこと。当時からサブウエイと呼ばれています。TTCは当初シカゴの交通システムをお手本にしたと言いますからアメリカ寄りかと思ったら、工法はロンドンと同じCut and Coverで、最初に走った車両(Gシリーズ)はイギリス製(Gloucester Railway Carriage and Wagon Company)の真っ赤に塗られた車両を船でモントリオールまで持ってきて、トロントまで運んでいます。のちに作られたHシリーズ(1965-2014)、Tシリーズ(1995〜)、現在の次世代型は銀色のステンレス車両で、カナダ製。



ちなみにモントリオール(STM)は駅の表示はメトロです。





ラバータイヤで車両が走るユニークな地下鉄システムはフランスから持ち込まれたものです。
http://blog.makotophotography.ca/2011/03/blog-post_1684.html

鉄道がどこをお手本にしているのかという視点で見るだけで、面白いテーマが見つかりそうです。

世界初の地下鉄は、蒸気機関車に牽引されていた




話をロンドンに戻すと、世界初の地下鉄で走っていたのは、なんと蒸気機関車。一台だけ生き残った「NO.23」が、ロンドン交通博物館に展示されています。



ヨークの国立鉄道博物館でさんざん大きな蒸気機関車をみているだけに、サイズが小さいのが印象的です。



客車はコンパートメント式。



もうもうと煙が立ち込める機関車の運転手にはとくに屈強な男が選ばれたといいますから、命がけだったのだろうと思います。そもそも地下鉄を蒸気機関車が走るなどという発想は、考えついたとしても現実的ではないし、特に煙の問題は重大であったことは容易に想像がつきます。

他に選択肢がない当時、これをやるという一歩を踏み出す力は、やはり当時あらゆるものが集まっていた世界の中心であったロンドンの街が持つ底力と言えそうです。

そして電化へ




ロンドンの地下鉄が電化されはじめたのは、1890年のこと。City and South London Railway (C&SLR) が電気機関車を使い3両編成の客車を牽引するというスタイルで始まります。これがその機関車。



マンチェスターの「MATHER AND PLATT ENGINEERS」製で、「electrical centrifugal pumps(電動遠心ポンプ)」の製造元として知られています。調べてみると、19世紀初頭、産業革命の紡績機械業で一旗揚げ、1883年にエジソンが発明したダイナモの製造権を得ると電気業へ事業拡大し、電子技師のJohn Hopkinsonが開発したモーターを使って電気機関車を作ったというのが、いきさつ。蒸気から電気への時代の波の変化にいち早く乗り、実験的な電気式の機関車を地下鉄で走らせるという荒技が行われたわけです。

電化の直接の理由は、テムズ川を超える地下道を建設する際、ここを通す地下鉄では蒸気機関車が使えない(換気ができない)ため、電気モーターを使うしかなかったわけです。この工事の際に、もう一つ新しい技術が開発されました。地中深くをトンネルで通す大深度路線建設には従来のCut and Coverではなくシールド工法が採用され、テムズ川の地下を掘り進むTower Subway建設中に大幅に技術が改良され、この時に現在に至る世界的なトンネル工事の技術が確立されました。これがロンドンの地下鉄の別名が「TUBE」と呼ばれるゆえんになっています。実際に旧型車両に乗ると、ほんとうに筒の中を走っているような気分になります。



客車の展示もありました。



まさにトンネルの中のような室内・・・

機関車から電車へ




地下鉄の電化は2段階で行われ、最初は電気機関車で客車を引っ張るという方法が行われましたが、1893年にリバプールの鉄道で電車(Electric multiple unit=EMU)が採用されると、ロンドンのCentral London Railwayが開業時(1900年)からは電車が導入され始めます。EMUはトラクション・モーターと呼ばれる主電動機を客車に設置して自走し、牽引の機関車を必要としないため、運転席がコンパクトでより多くの乗客を輸送することができるようになります。



一方で、地図のように発電所を持つ必要が出てきますから、電力を作る技術、送電の技術、電力をコントロールする技術など様々な関連技術の開発と改良、施設の建設など莫大なお金がかかります。



しかし鉄道の電化はすでに始まっており、地下鉄においてはこのスタイルが現在にまで至る車両の原型となります。



入り口のドアの上の方が曲がっているのが、特徴的。



ギリギリを走るためです。



客車内も随分改良されました。つり革が新鮮に見られます。



電気機関車もその後改良が重ねられ、1920年代に製造された「Metropolitan-Vickers」No.5はこんな風になりました。



全部で20両作られましたが、すべて著名人の名前が付けられています。NO.5はイギリスの革命家「John Hampden」の名前が付けられました。

どうやら20世紀の初頭のロンドンの地下鉄は、電車と電気機関車の両方が走っていたみたいですね。

開業時の駅を、ベーカーストリート駅にたずねてみました




ベーカー・ストリート駅は、ロンドン地下鉄が最初に開業した路線の中でも当時の風景が保存されている駅として知られているというので、行ってみました。



言われてみると、地上からそんなに深くありません。cut-and-cover工法の意味がわかります。



この壁なんかは、古そうですね。





このゲートの周辺には、開業当時のものがいろいろと残されていました。

新型車両は広々




地上部分のホームに行くと、新型車両が出発を待っていました。



ドアは両開きで広々。車内も明るくて、旧型より明らかに広いです。



ロンドンで走る最新のEMUは、ヒースロー国際空港とパティントンを結ぶHeathrow Express。ちなみに最近トロントで開業した、トロント国際空港とダウンタウンを結ぶUP Expressは、ディーゼルユニットを使ったDMU。電化の話題も出ていますが、スタイルとしてはHeathrow Expressと同じですね。



「UPは値段が高い」と言う人が圧倒的ですが、ヒースローの場合片道21ポンドですから、UPの場合カードを使って19ドル(ポンドに換算するとだいたい10ポンドくらいですね)だったら別に驚くような値段ではない、と私は思います。

特に世界の主要都市では、車輪とレールの接地面積に比べて動力の効率が良い鉄道が省電力でエコということで、路面電車や鉄道路線の建設が再注目されています。問題は莫大な初期投資が必要なことと、効率の良いメンテナンスが必要なこと。世界的に見て鉄道の歴史は、倒産と合併の歴史でもあります。まだまだエコと経済性は両立しないようです。