トロント(カナダ)在住20年の筆者が、カナダ国内旅行やトロント市内を中心としたイベントで撮影した写真で綴るブログです。
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2013年7月11日木曜日

ホンダインディー・トロント観戦ガイド(3)

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いよいよ明日から始まる「ホンダインディー・トロント」。数日前に降った大雨もすっかり上がり、コースをはじめ会場も準備万端。明日の練習走行を目指して、レースカーが「パドック」と呼ばれる整備地区へと搬入されました。今日はメインスポンサーのホンダ・カナダ主催の「バックステージ・ツアー」に招待していただきましたので、パドックについて書いてみたいと思います。

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まず場所ですが、入り口ゲートは「INDYCAR PADDOCK」と書いてある赤い横断幕が目印。ホンダブリッジを降りて左に曲がるとすぐです。中に入ると、各チームごとに区分された場所にレーサーの顔写真が入ったのぼりが立っているのが目に入ってきます。これだけ見ると何だかお祭り気分ですが、近づくと格納庫代わりのトレーラーの隣に大きなテントが設置され、中ではメカニックが忙しそうに作業をしていて、なんだか近寄りがたい緊張感がいっぱい。タイミングが良ければ、レーシング・カーがトレーラーの中に出し入れされるシーンや、レーサーがスクーターに乗ってパドックにやってくる場面に遭遇できるかも・・・

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今季初優勝を果たした佐藤選手が、ホンダ青山本社での凱旋報告会で語っていた、『インディー・カーレースにおいては、「究極のエンジニアリング」「コースにいち早く戻すピットワーク」「マシンを速く走らせるドライビング」の3つがバランスして整うことが絶対条件』という言葉。今回ご紹介するパドックは、彼が言っていた「究極のエンジニアリング」が行われる聖地。各チームは、専用のトレーラーでレースカーや器具一式を搬入。「パドック」と呼ばれるエリアに、おのおの整備場を作ります。

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柵の内側は部外者立ち入り禁止ですが、今回は特別に入れていただきました。カメラでの撮影はできますが、エンジンや重要機材等がありますのであまり撮られることは好まれないようです。柵の外からでも作業場を見ることができます。ここは「モータースポーツ最先端の、プロの現場」。クリーンで整理整頓されている様子に圧倒されます。作業場にはコースから戻って来たレースカーが置かれ、練習走行や予選で得られたデータをもとにして、各チームが細かな調整を行います。
インディーカーのレースは、オーバルと呼ばれる楕円形などの形をした専用コースと、トロントに代表されるストリート・コースに大きく分けられます。さらにコースの状況は一つとして同じものがないため、チームは限られた時間で毎回新たにレースカーのセッティングをすることになります。

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レースカーはTechエリアで毎朝規定にマッチしているか主催者により厳密な検査があります。昨日訪れた時はちょうど検査が行われていた時間。係官が定規のようなものを持ち出してはボディーの形など、かなり時間をかけた検査が実施されていました。

レーサーは練習と予選を通してレースカーを走らせ、様々な走行データを取って行きます。今年は練習走行は金曜日の午前中に行われる90分間一度だけ。予選は午後に行われる70分間ですが、グループに分かれますので、データが取れる時間はかなり限定されます。メカニックは、レースカーが最高のパフォーマンスを出せるように日夜調整を続けるのです。

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カーレースというとコースを走るレースカーに集中しがちですが、佐藤選手の先のコメントのように、コース外で「もう一つの闘い」が行われていることを知ると、さらにモータースポーツの醍醐味を生で感じることができるようになります。
スタッフによってピカピカに磨き上げられたトレーラーやレースカー、タイヤのリムなどを見ていると、彼らの車にかける意気込みやプロフェッショナリズムを感じることができます。 私自身今年が5年目のインディーですが、最初の年に目を奪われたのはコースを走るレースカーではなく、このパドックの風景でした。

なお「パドック・パス」という入場許可証(有料)を持っていれば一般の観客も入ることができます。特に明日の金曜日は入場無料。パドックも無料開放になります。もしパスが入手できなくても大丈夫。パドックの出口からコースまでの通りには、練習・予選、本戦ともに入れ替えのためずらりとレースカーが並びますので、道路の端から本物のコックピットを覗くことも可能! レースを良く知るファンは、時間になるとここに集まってきます。

レースカーについても理解してみる
多少専門的にはなりますが、インディーで使われているレースカーの構造を理解すると、さらにレースに対する面白さが増してきます。

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インディー・カーの構造をざっくり言うと、シャーシーと呼ばれる車体、エンジン、タイヤ、ボディーに分かれています。ドライバーと燃料の除いた車体のみの重さは、オーバルと呼ばれる専用コースでは最低で691.7 kg (1,525 lb) 、ストリートを使うロードコースの場合は725.7 kg (1,600 lb) と決められています。ちなみに市販車と比較すると、ホンダの「N BOX」が950kgですから、最近流行のお洒落な軽自動車よりも300kg近く軽いことになります。

シャーシー(車の骨格):
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インディーで使用されるシャーシーは、ダラーラ製のワンメーカー(全車両が同じメーカーのものを使う)。この車の骨格とも言われる基本部分には、タイヤ、サスペンション、エンジンをはじめとする動力装置、ドライバーが座るコックピットなどすべての部品が乗り、ボディーが覆います。
軽量の上、時速200キロ高速で走るレーサーは常に危険と隣り合わせ。最大限の安全性確保のためシャーシーは毎年改良が加えられ、近年ではレース主催者が安全を考慮したルールを定め、製造メーカーがそれを満たす形で、最新の技術が使われています。現在使われているダラーラ「DW12」には、サイドインパクト・ストラクチャー(車体が側面から壁に激突した場合の横転防止)や、リアタイアの後ろにカバーがつけられ、高速走行時に車が浮き上がったりしないような様々な工夫もなされています。

エアロパーツ:
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1秒を争うモータースポーツにとって重要な役割を果たすエアロパーツ。フロント、サイド、リアなどにつけられ、空力抵抗を減らしつつ走行時の安定性を確保します。インディーでは、トロントのようなストリートを走る場合の「ロードコース・パッケージ」と、専用コースの「スーパースピードウェイ・パッケージ」の2種類が用意されていて、コースによって使い分けます。 現在の規定では、シャーシーを製造するダラーラのものを統一使用しているために、レースカーの外観はすべて同じ。ボディーの色やロゴによりレースカーを見分けることができるのみになっています。

エンジン:
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Hondaがインディーに参戦したのは1994年〜95年シーズン。その後2003年に再開し、現在はシボレーとHondaの2社がエンジンを供給しています。シボレーは「Chevy IndyCar V6」ツインターボ、Hondaは「HI13RT」シングルターボエンジンを使用。共に6気筒2.2リットルで、重さは112.5 kg (248 lb)。技術の粋が集まった高性能エンジンです。
インディー・カーでは「ドライブ・バイ・ワイヤ(drive-by-wire)」という方式で、アクセルペダルとスロットル・バルブがつなげられています。スロットルという装置は、エンジンへ空気を送る量を調整するもの。アクセルペダルにケーブルがついていて、これがスロットルの弁の開き方をコントロールする役割を果たします。簡単に言うと、ペダルを踏むとケーブルが動き、弁が開いて空気がエンジンに多く送り込まれ、エンジンの回転数が上がる、という仕組みです。
インディーで採用されているものは伝統的はケーブル式ではなく、「電子制御スロットル」と呼ばれるもの。ペダルに取り付けられたセンサーがアクセルを踏み込んだ量を感知して、電子制御でスロットルが開くようになります。

ステアリング(ハンドル):
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エンジンにより作られた動力は、ギアという歯車を経由してタイヤを回転させる力に変えられます。
インディーカーで使われているギアはXTRACと呼ばれる6速マニュアルで、ギアチェンジには「パドルシフト式セミAT」という方式が採用されています。レーサーはハンドルの裏側にあるレバーを操作することでギアチェンジができる仕組みで、市販車のマニュアル車のように片手をハンドル、片手をシフトレバーに置かず、常に両手をステアリングと呼ばれるハンドルに置いてドライビングに集中することができるように工夫されています。またクラッチを操作する足元のペダルが必要なくなり、よりコンパクトなコックピットにすることができるという利点もあります。一方で、ギアチェンジはコンピューター制御になるため、まれにセンサーの具合によってはギアが入らないといったようなことが起きるようです。
上は実際のレースカーのステアリング(昨年バージョン)ですが、沢山のボタンがついています。「RADIO」はコックピットから無線でピットのコントロールセンターと話す時に使うボタン。「DRINK」は水を飲むとき。「PIT-SPEED」はピットインする時に決められた速度を出すボタン・・・
「P2P」はプッシュ・トゥ・パス。追い越しの時に使う特別なスイッチで、起動するとエンジンの回転数とターボチャージャーの圧力が上がりレースカーが決められた時間内だけ速くなります。トロントでは使用回数が10回で、1回につき20秒間レースカーのスピードが上限より速くなります。これを上手に使うことで、前の車を抜き去ることができるレース中の「ボーナス」のようなものです。

タイヤ:
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インディーで使用されるタイヤは、ファイアストン(ブリヂストン)製。ブラックタイヤと呼ばれる「プライマリー」が6セット(24本)、レッドタイヤ(タイヤの側面が赤く着色されている)と呼ばれる「オルタネイト」の3セット(12本)の2種類が用意されます。どちらのタイヤでも最低2周は走らなければならないルールになっているので、例えば、走行タイムの向上が見込めるレッドタイヤ(柔らかい素材を使っており路面のグリップが良い)だけでレースを完走することはできません。

サスペンション:
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タイヤを支えるのがサスペンションと呼ばれる部分です。インディーでは「Double A-Arm」という形式が採用されています。日本では「ダブルウィシュボーン」と呼ばれるもので、レースカーでは一般的に使われる伝統的なもので、市販車にも使われている技術です。
インディーカーの場合、正面から見るとハの字のように斜め下に向って棒が出ているプッシュロッドという安定性をさらに高める仕組みが取り入れられており、またアンチロール・バー(スタビライザー)により、コーナーを曲がる時に車体が傾くのを軽減する構造にもなっています。

将来のロードマップ:
進化を続けるインディー・カー。エンジンは今後2.2L V6ツインターボとなり、新たにF1で採用されている「Kinetic Energy-Recovery System=KERS(カーズ)」に類似したシステムが採用されます。これは運動エネルギー回生システムと呼ばれ、レースカーが急減速する時の運動エネルギーを回収し、それを駆動力として再利用するもので、すでにハイブリッド車などの量産車で使用されているものです。
レースカーは「走る実験場」とも言われていましたが、現代では一般車両で実現されているものがさらにブラッシュアップされ、レースカーに採用される。そしてさらに一般車両にフィードバックされるという関係に変わっているようです。それほどクルマの進歩は速いスピードで進んでいるのですね。

いつものように、本日の写真はこちらから。スライドショーもご覧下さい。
http://www.flickr.com/photos/makoto2007/sets/72157634590904887/
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